Cras te victurum, cras dicis.「明日はどこに?」~マルティアーリスの『エピグランマタ』(5.58)

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マルティアーリス

語彙と文法

「クラース・テー・ウィクトゥールム・クラース・ディーキス」と読みます。
crāsは「明日」を意味する副詞です。
tēは2人称単数の人称代名詞、対格です。
victūrum は「生きる」を意味する第3変化動詞 vīvō,-ereの未来分詞、男性・単数・対格です。
省略されたesse(sumの不定法・現在)とともに、不定法・能動態・未来を作ります。
この文では意味上の主語が対格 tē(tūの対格)で表されています。
dīcis は「言う」を意味する第3変化動詞 dīcō,-ere の直説法・能動態・現在、2人称単数です。
「君は明日生きるだろう、明日は(生きるだろう)と言う」と訳せます。
「明日生きるだろう」とは、「(能動的に)『生きる』のは(今日でなく)明日にするつもり」ということで、今日も昨日と変わらずだらだらと過ごすという皮肉を込めた表現とみなせます。
マルティアーリスの詩(5.58)にみられる表現です。表題のラテン語が1行目で、2行目以下は次の通りです。

マルティアーリス 5.58の全文と解説

テクスト

Crās tē uictūrum, crās dīcis, Postume, semper:  1
dīc mihi, crās istud, Postume, quando uenit?  2
Quam longē crās istud! ubi est? aut unde petendum?  3
Numquid apud Parthōs Armeniōsque latet?  4
Iam crās istud habet Priamī uel Nestoris annōs. 5
Crās istud quantī, dīc mihi, possit emī?  6
Crās uīuēs? Hodiē iam uīuere, Postume, sērum est:  7
ille sapit quisquis, Postume, uīxit herī.  8

韻律:エレゲイア

Crās tē | uictū | rum, crās | dīcis, | Postume, |semper:
dīc mihi, | crās is | tud, | Postume, | quando ue | nit?
Quam lon | gē crās | istud! u | b(i) est? au | t unde pe | tendum?
Numquid a | pud Par | thōs | Armeni | ōsque la | tet?
Iam crās | istud ha | bet Pria | mī uel | Nestori | s annōs. 5
Crās is | tud quan | tī, | dīc mihi, | possit e | mī?
Crās uī | uēs? Hodi | ē iam | uīuere, | Postume, | sēr(um) est:
ille sa | pit quis | quis, | Postume, | uīxit he | rī.

・奇数行→ ―VV | ―VV | ―VV | ―VV | ―VV | ―VV
・偶数行→ ―VV | ―VV | ― | ―VV | ―VV | ―
・―(長音節)とVV(短音節×2)は等しい。

2行目の語彙と文法

dīc mihi, crās istud, Postume, quando uenit?  2

dīc: dīcō,-ere(言う)の命令法・能動態・現在、2人称単数。dīcの間接目的語。quandoの導く間接疑問文を目的文にとる。
mihi: 1人称単数の人称代名詞、与格。「私に(mihi)言ってくれ(dīc)」。
crās: ここでは「明日」という中性の単数名詞として使われている。quandoの導く間接疑問文の主語。
istud: 2人称にかかわる指示代名詞iste,ista,istud(それ、その)の中性・単数・主格。crāsにかかる。「(おまえの言う)その『明日』は」。
Postume: Postumus,-ī m.(ポストゥムス)の単数・呼格。
quando: 「いつ(疑問副詞)」。間接疑問文を導く。
uenit=venit: veniō,-īre(来る)の直説法・能動態・現在、3人称単数。quandoの導く間接疑問文における動詞。文法の基本では接続法になるが、ここでは直説法が用いられている。その点を考慮に入れて、この一文には2つの直接疑問文があるとみなすことも可能(逐語訳参照)。

<逐語訳>
私に(mihi)言ってくれ(dīc)。おまえのその(istud)明日は(crās)、ポストゥムスよ(Postume)、いつ(quando)訪れるのだ(uenit)。

3行目の語彙と文法

Quam longē crās istud! ubi est? aut unde petendum?  3

Quam: 「いかに」(疑問副詞)。直接疑問文を導く。
longē: 「長く」(副詞)。quam longēは英語のhow longに相当。「どれくらい長くかかって(おまえの「明日」はやってくるんだ)」。動詞venitを補って理解する。
crās: ここでは「明日」を意味する中性・単数名詞(主格)として用いられている。
istud: 指示代名詞iste,ista,istud(それ、その)の忠誠・単数・主格。crāsにかかる。
ubi: 「どこに」(疑問副詞)。直接疑問文を導く。
est: 不規則動詞sum,esse(いる、ある)の直説法・現在、3人称単数。crāsが主語。
aut: または、あるいは
unde: 「どこに、どこから」(疑問副詞)。直接疑問文を導く。
petendum:  petō,-ere(求める)の動形容詞、中性・単数・主格。crās istudと同格(性・数・格が一致)。「求められるべき」(求めるべき)。estを補って理解する。「それはどこに(unde)求められるべき(petendum)であるか(est)」。

<逐語訳>
どれくらい(Quam)長くかかって(longē)おまえのその(istud)明日は(crās)(やってくるんだ)。それはどこに(ubi)いるのか(est)。あるいは(aut)それはどこに(unde)求められるべき(petendum)であるか(est)。

4行目の語彙と文法

Numquid apud Parthōs Armeniōsque latet?  4

Numquid: (否定の答えを予想する疑問文を導き)「~ではないだろうね」。
apud: 「<対格>の間で」。
Parthōs: Parthī,-ōrum m.pl.(パルティア人)の複数・対格。
Armeniōsque: ArmeniōsはArmenī,-ōrum m.pl.(アルメニア人) の複数・対格。-queは「そして」。ParthōsとArmeniōsをつなぐ。「パルティア人(Parthōs)と(-que)アルメニア人(Armeniōs)の間で(apud)」。
latet: lateō,-ēre(隠れる)の直説法・能動態・現在、3人称単数。主語はcrās istud(おまえの「明日」)。

<逐語訳>
まさか、パルティア人(Parthōs)と(-que)アルメニア人(Armeniōs)の間に(apud)隠れている(latet)のではないだろうね(Numquid)。

5行目の語彙と文法

Iam crās istud habet Priamī uel Nestoris annōs. 5

Iam=Jam: 今、すでに(副詞)
crās: 「明日」。名詞化された副詞。中性・単数・主格として用いられている。
istud: 指示代名詞iste,ista,istud(それ、その)の中性・単数・主格。crāsにかかる。
habet: habeō,-ēre(持つ)の直説法・能動態・現在、3人称単数。主語はcrās(「明日」)。
Priamī: Priamus,-ī m.(プリアムス)の単数・属格。プリアムスはトロイヤ王。annōsにかかる。
uel=vel: あるいは
Nestoris: Nestor,-oris m.(ネストル)の単数・属格。ネストルはピュロス王。annōsにかかる。
annōs: annus,-ī m.(年齢)の複数・対格。habetの目的語。

<逐語訳>
今(Iam)おまえのその(istud)明日は(crās)プリアムスの(Priamī)あるいは(uel)ネストルの(Nestoris)年齢を(annōs)持っている(habet)。

6行目の語彙と文法

Crās istud quantī, dīc mihi, possit emī?  6

Crās: 「明日」。名詞化された副詞。中性・単数・対格として用いられている。不定法emīの意味上の主語。
istud: 指示代名詞iste,ista,istud(それ、その)の中性・単数・対格。Crāsにかかる。
quantī: 疑問代名詞quis,quis,quid(誰が、何が)の中性・単数・属格(「価値の属格」)。「いくらで」、「どれだけの値段で?」
dīc: dīcō,-ere(言う)の命令法・能動態・現在、2人称単数。
mihi: 1人称単数の人称代名詞、与格。「私に」。
possit: 不規則動詞possum,posse(<不定法>が可能である)の接続法・能動態・現在、3人称単数。間接疑問文で用いられる接続法。emīを補語にとる。
emī: emō,-ere(買う)の不定法・受動態・現在。意味上の主語はCrās。「おまえのその(istud)「明日」は(Crās)いくらで(quantī)買われることが(emī)可能であるか(possit)」。

<逐語訳>
おまえのその(istud)明日は(Crās)いくらで(quantī)買われることが(emī)可能であるか(possit)、私に(mihi)言ってくれ(dīc)。

7行目の語彙と文法

Crās uīuēs? Hodiē iam uīuere, Postume, sērum est:  7

Crās: 「明日」(副詞)。uīuēsにかかる。
uīuēs=vīvēs: vīvō,-ere(生きる)の直説法・能動態・未来、2人称単数。
Hodiē: 「今日」(副詞)
iam=jam: 「今、すでに」(副詞)。uīuereにかけるかsērumにかけるか。前者なら「今」、後者なら「すでに」。
uīuere=vīvere: vīvō,-ere(生きる)の不定法・能動態・現在。文の主語。
Postume: Postumus,-ī m.(ポストゥムス)の単数・呼格。
sērum: 第1・第2変化形容詞sērus,-a,-um(遅い)の中性・単数・主格。
est: 不規則動詞sum,esse(である)の直説法・現在、3人称単数。

<逐語訳>
明日(Crās)(おまえは)生きるつもりだと(uīuēs)?ポストゥムスよ(Postume)、今日(Hodiē)今(iam)生きることは(uīuere)遅い(sērum)のである(est)。

8行目の語彙と文法

ille sapit quisquis, Postume, uīxit herī.  8

ille: 指示代名詞ille,illa,illud(あれ、あの)の男性・単数・主格。quisquisの先行詞。
sapit: sapiō,-ere(賢明である、分別がある)の直説法・能動態・現在、3人称単数。
quisquis: 関係代名詞quisquis,quaequae,quodquod(~する者は誰でも、~するものはなんでも)の男性・単数・主格。先行詞はille。
Postume: Postumus,-ī m.(ポストゥムス)の単数・呼格。
uīxit=vīxit: vīvō,-ere(生きる)の直説法・能動態・完了、3人称単数。
herī: 「昨日」(副詞)。uīxitにかかる。

<逐語訳>
ポストゥムスよ(Postume)、昨日(herī)生きた(uīxit)者は誰でも(quisquis)、その者が(ille)賢明なのである(sapit)。

Martialis

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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